2007年冬、薪ストーブの炎が、
日々の時間をあたたかく彩るM邸が誕生。
60代ご夫婦が、終の棲家として選んだこだわりが、空間の随所にとけこむ「MAGARIYA」完成までのプロセスをご紹介します。
Mご夫婦にとっては、3軒目となる家。
初めての家はハウスメーカーに依頼、
2軒目は男性建築士が手がけたものでした。
「夫婦二人きりになり、手頃な広さで、掃除や雪かきに煩わされることなく、
のんびり暮らしたいと思ったんです」
マイホームセンターや「建築家展」などへ出かけ、建築家カタログも購入。
そこでTAO建築設計のことを知り、2007年の春の初め、来所されました。
Mご夫婦の希望は、すでに具体的に思い描かれていました。
候補となっていた現在の土地では、以前の家よりかなり手狭になることを
ご理解頂いた上で、別の土地を探すことも想定しながらまずは図面を起こしてみることとなりました。
「夫婦で老後を過ごす家ですから、女性の建築家ならではの
細かい配慮に期待したんです。土地選びのことから親身に相談にのってもらい、
最初の出会いから信頼できそうな人だと感じました」
「ほとんどラフプランのまま、手直ししてもらう部分はありませんでした。
基本的に間接照明を使う設計も、私たちの生活スタイルにぴったりはまっています。この段階でイメージしにくかったのは、天井の仕上がりくらいでしたね」
長年、戸建てにお住まいになり、ご自分たちのライフスタイルが確立された
ご夫婦だけに、細部の打ち合わせもかなりスムーズに運びました。
アパートやマンションから戸建てに住み替えなさる方たちには、生活シーンをなるべくリアルにイメージしていただくため、この段階でのやりとりに時間をかけさせていただいています。
Mご夫婦とは、2週間に一度の打ち合わせを進め、2ヶ月で設計図が完成。
設計図書は45枚になりました。
9月初旬に着工、10月下旬に上棟。
着工からは、現場施工者も含めて1週間に1回の定例会を開きました。
そして12月20日、引き渡しへ。
テラスを包み込むようにレイアウトしたM邸の愛称は「MAGARIYA」
寝室の障子を開けると、テラスをはさんでリビングとつながり、
家のどこにいてもお互いの気配を感じ合えます。
吹き抜けのリビング・ダイニング、段差のない床、外との一体感を愉しめるテラス……実際の面積以上に感じられるのびやかな空間が生まれました。
「住みごごち?満点ですよ」
ムク材のフロアを元気に走り回る愛犬・パピちゃんもお気に入りの様子です。
「風が入ってこない郵便受けや水滴がたまらない傘入れ、外気を利用して冷蔵庫のように使える食品庫など、期待通りのキメ細かい配慮がいっぱいです。収納もたっぷり。キッチンもとても使いやすい。大満足です。」
水周りの上部は、屋根裏部屋風のロフト。そこへ続く階段が、空間のアクセントとなっています。
「階段途中やロフトから眺めると、また違う表情に見えて飽きませんね。天井の木組みも気に入ってます」
ご主人が手がけたダイニング・テーブルで食事。
そしてストーブの炎とわずかな間接照明だけで、音楽をかけながらコーヒーを愉しむ……ご夫妻にとって、何よりのお気に入り時間だそうです。
「薪ストーブをつけて、本当によかった。裸足でいられるほど、あたたかいのはもちろん、炎を見ているだけでほっとなごみます」
夜は照明を落とし、空間の陰影を楽しむというご夫妻。
パピちゃんもぴったりと寄り添います。
結婚40年。気に入ったものを大事に使いたいというご夫妻は、椅子などは張り替えてお使いになっています。
「このソファは、もう20年くらい。クッションのサイズに合わせてフレームだけつくっていただきました。新しい家に、以前の生活のぬくもりがそのままとけこんでいます」
雪がとけたら、テラスに植栽し、卓袱台を配置。食事したりテレビを見たり、リビングの延長のように使われるそうです。
日常の中で、いかに人生を豊かに愉しむか……
ご夫妻のこだわりや明るい笑顔から、たくさんのことを教えていただきました。
この空間に日々、心の上質感を映すいい時間が流れ続けることでしょう。