2006年11月、緩やかな坂の途中に
奥行き20mという、のびやかな平屋が生まれました。
土地の形状を最大限に活かしながら、
40歳代前半・Sご夫妻の夢と暮らしやすさを求めた
「こだわりの家」が完成するまでの
プロセスをご紹介します。
ご夫妻がそろそろ家を、と考え始めたのが3年ほど前。
まずは、いろいろなメーカーのモデルハウスを見て回ったそうです。
「でも、あまりピンとこなかったんです」
小樽に住みたいという強い希望があったので、
同時に土地探しにも取りかかりました。
そのうちに設計事務所の話を聞いてみようと、インターネットで情報を集め、TAO建築設計を知りました。Sさんは、設計士に頼むならば、2つの条件を求めていたそうです。
まず、同年代であること。そして、女性であること。女性が創る男性的な家がいいと漠然と思っていたそうです。川村が手がけた建築例を見て、自分の条件や好みに合っていそうだと感じ、来所されました。
「川村さんの第一印象?HPの写真とは雰囲気が違っていましたね(笑)。自分たちの知人と似た感じだったせいか、すぐに打ち解けました。きっと私たちの家づくりの希望をわかってもらえるだろうと直感しました」
最初の面談でTAO建築設計に任せてみようと思われたSご夫妻。土地選びから協働作業がスタートしたわけです。
TAO建築設計では、施主となる方のお話をじっくりとお聞きすることを何よりも大切にしています。
どのような家を建てたいのか。それは、どのような暮らしを描いていらっしゃるかということ。そして、どのような時間を大切にし、ご家族とどのような日々を過ごしていきたいとお思いなのか、そういう一つひとつのこだわりを叶えていくことが設計の仕事だと考えています。
S夫妻にも、まずどんな生活イメージをお持ちなのかを2週間に1度ほどお会いしながらお聞きしました。
ご夫妻の基本的なご希望は、
「川村さんと話すのは楽しかったですね。自分たちでも気づいていなかった希望や生活イメージを自分たちで発見していくという連続でした」
特に川村が「和風が好きでしょ?縁側欲しいでしょ?」と言ったときに「う〜ん、確かに、わかってくれているなぁ」と感じたそうです。
「ハウスメーカーでは、できないと言われることの方が多くて……川村さんは、どんなこともまずは受け止めてくれました」
最初から、ざっくばらんに話せたとご夫妻は振り返ります。
「最初のプランが出てくるのが、とても楽しみでした」
土地の形状を活かし、直線的な平屋にするという基本的な方向性は合意ができていましたから、その空間の中にいかに「開放感」と「こもる感」を調和させるかを考えていきました。
最初は、ほとんど手描きに近いラフスケッチをお出しします。S邸に関してはこの段階でかなり思いきった空間構想ができていました。
「確かに、思い切りよく間仕切りががなくて(笑)。窓も多くて、開放感ありすぎ(!?)と、ちょっとは戸惑いました。でも、こういう家を見てみたいと強く思ったんです。ほとんど、このラフ案でOKでした」
さらに、平面図、立体図、断面図、模型などを提示し、立体的なイメージをつかんでいただきます。同時に、コストの概算と工程表を作り。全体の流れを確認していきました。
通常、ここまでの作業は無料でさせていただいています。人生の器となる大切な家づくりのプロセスを、TAO建築設計と「同士」として一緒に歩んでいけるかどうか、この段階でしっかりと見極めていただきたいからです。
「具体的になればなるほど、期待感と現実的な問題が絡み合うものですよね。希望とコストは常に一体ですから。でも、たぶん川村さんならば一緒に考え、最良のアドバイスをしてくれるだろうと信頼できました」と、S夫妻は判断してくださいました。
そして、正式契約へ、いよいよ家づくりが本格的にスタートします。
2週間に1度くらいのペースで打ち合わせを続けながら、細部を詰めていきます。
模型屋イメージ写真、サンプルなどを使い、その空間の中で生活しているシーンをなるべく具体的に思い描いていただきながら、1冊の設計図書(仕様書・意匠図・構造図・設備図等での工事の方針・内容を伝える図画)に「まとめていく作業です。
など、打ち合わせを重ねるに従って、より具体的でざっくばらんな本音の要望が次々と出てきました。
「川村さんはゴジラの模型を使い、図面上で私たちに見立てて、私たちの暮らしぶりを具体的に想定していったんです。 キッチンでは、リビングではどんな動きをするのか、電気のスイッチはどこにあればいいのか……生活のシュミレーションをしていたわけですね。楽しかったですよ」
約1年をかけて設計図書が完成、S邸は43枚になりました。
施工者候補を一緒に選定し、
設計図書を元に正確な工事見積を取ります。
見積額が肝心であることはもちろんですが、
やはり技術力、実績、さらに仕事への心意気や社長の人柄などを総合的に判断することが大切だと思っています。
私は、特定の工務店とだけ仕事をすることはありません。
その都度、最適な業者を施主とともに選定していきます。
S邸には、小樽の2社の工務店を候補として上げ、見積を取りました。
予定していた価格より少々高くなりましたが、Sご夫妻は「妥協せずにプラン通りに造りたい」と強く希望され、比較的スムーズに調整できました。
川村は施主の目線でアドバイスさせていただきますが、最終的に決めるのはあくまで施主です、Sご夫妻といろいろな観点から検討した結果、今回のA工務店を選定しました。
基本的に週に1回程度、現場か事務所で打ち合わせを重ねながら進めていきます。
その場で、現物の材料を見ながらサイズや高さを細かく調整。図面だけではどうしてもわからなかった部分が、目の前でカタチになっていきます。
「頭の中では完璧にでき上がっていたつもりでしたが、部分部分に関しては、へぇ〜こうなるんだぁとあらためてわかったところもあります、例えば天井のカタチとか吹き抜け感とか、想像とは違っていました」
TAO建築設計では、施主にできる限り現場の作業に参加していただきたいと考えています。Sご夫妻と話し合った結果、外壁の塗装をお願いすることになりました。
「正直、大変でしたよ(笑)。
コストダウンできることはうれしかったですが、自分たちの作業が遅れると工期にも関わってくるので、ほぼ3ヶ月間、自分の仕事を終えた後にここに通いました。
何度か、もう業者さんにお任せしようかと思いましたが、出来上がってみると、やはり愛着が湧きますね」
川村が大切にしている、この「手づくり感」はたとえ言葉で伝えることはなくても、誰の心にも響き、静かな感動を与えるものだと信じています。
ただ、Sご夫妻は本当に大変だったと思います。お疲れさまでした。ありがとうございます。
小樽に初冬の風が吹き始めた11月中旬。S邸「のびやかな平屋」が完成。関係者すべてが集い、引き渡し式を執り行いました。
「想像以上に、いい家ができました」
Sご夫妻は笑顔で語ってくださいます。
「不思議なほど、すぐに馴染んだんですよ。
入居してすぐに、もう何年も住んでいる家みたいでした」川村にとっては、何よりもうれしい言葉です。
「プランの段階では、こんなに窓が多くて大丈夫かなと少し不安もありました。でも、生活していると全然気になりません。外からはほとんど見られることはないけど、自分たちはポカポカとあたたかい部屋の中から外の景色が変わっていくのを見られて楽しいです」
「でもね」と奥様。「窓磨きはちょっと大変」と笑います。
それ以外のお掃除はとてもラクだそうです。「家の中を直線で走ることができるなんて、いいでしょ?」と本当に楽しそうです。「キッチンも使いやすいですよ。食器洗い機の位置やゴミ箱をどこに置くかも、プランの段階でじっくりと考えられましたから、私の理想通りにでき上がりました」
ダイニングから見て奥のスペースに食器戸棚兼作業スペースを設けたことで、キッチンの天板上には物を置かずに、すっきりとお使いです。
「こもる部屋」は、お二人のワークスペースに、
蔵書類のサイズに合わせて造った棚で、無駄なく見た目もきれいに収まっています。唯一のドアがある部屋は、楽器演奏や音楽・DVD鑑賞のためのスペース。
「そのまま眠ってしまうこともあるくらい、居心地がいいです。
今日はどこで寝ようかなというくらい、家中どこでも寝床になっています」ということです。
「この家に引っ越してから、喧嘩しなくなったんですよ。いつでも、お互いの気配がわかるというのかなぁ。何かを確認するための会話がいらなくなりました。二人ともこの仕切りのない家がとっても気に入っています」
「家族がひっついて暮らす家」…川村が何よりもこだわっているテーマです。この「のびやかな平屋」は、Sご夫妻の幸せと心のゆたかさをいつまでも包みこみつづけることでしょう。
「家づくりを考えている方は、まず川村さんと話してみるといいと思いますよ。私たちもお互い何でもざっくばらんに話すことから、いい家ができるのだと実感しています。TAO建築設計は、完成した後もいつでも相談に乗ってくれるので、この先のことも安心です」
この家で迎える初めての春。
いま、庭づくりをプランニング中です。リビングの延長のように庭へ張り出したデッキ部分は、縁側をイメージしています。
もう間もなく、緑が揺れ、花やハーブが陽ざしに映える光景が
窓の向こうに広がり始めます。
新しい季節に向かって、さらに暮らしの彩りが増えていくことでしょう。