もともと建具の職人であった松山勝仁さん。より現場を知りたいと家具も手がけるようになり、2006年に独立。建具と家具の設計・製造はもちろん、キッチン等の提案・制作など住空間に求められる造作に、幅広く取り組んでいる。その技量が認められ、各方面からの依頼が絶えないが、常に住む人の要望を聞きとり、咀嚼し、イメージを超えるモノづくりにていねいに向き合っている。会社の命名者である父・勝幸(かつゆき)さんも、現役の職人として日々制作。60年以上の職人魂は、全スタッフに引き継がれている。
札幌市清田区平岡3条6丁目2−31
tel 011-374-7120
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「えー、そこまでやるの!?」10年ほど前、初めて川村からオーダーがあったときの松山さんの第一声だった。「とてつもなく難しかった」と振り返る。
構造材にタモの挽き板を貼る作業だったが、普通は紙のように薄い板を貼る。だが、川村の要望は5mmほどの挽き板を貼り合わせること。そのくらいの厚さになると、割れやすく狂いやすい。しかも、まるで1本の木を使ったように見せたいという川村のこだわりに応えるためには、面ごとの木目まで合わせなくてはならない。
「それまで、構造材のように大きなものを扱ったことさえなかった。作業を完了したときは、ほぼ息絶えました」と笑う松山さん。「さまざまな設計事務所の仕事は受けてきましたが、川村さんが求めることは3倍くらい大変です」。
松山さんは、もともと建具の職人だった。もっと現場を知りたいと思い、木工も手がける建具屋に入り、現場監理していたときに建築家と関わるようになった。それから、本格的に建具・家具に携わってみたいと独立。興味を深めるほどに、手がける範疇が広がった。一般的には、建具屋、家具屋、そして木工作家はほぼ分業なので、松山さんのようなオールラウンダーは稀である。
川村が手がける建物は、まるごと家具のようだ、と松山さんは感じている。一見簡単そうに見えるものほど、図面を紐解いていくとその難しさがわかる。まるでパズル!?住宅の設計図にはあり得ない単位での緻密さだ。何度も「ここまで、する!?」と松山さんは驚いた。「そこまでしっかりイメージできているのが、すごい!こちらも、やってやろうじゃないか!と刺激されます」。
上質な空間づくりには、家具の役割がとても大きい。毎日、頻繁に使うものだけに、ほんの少しの違いが満足感に直結する。だから、建築と家具の仕事は、ひとつづき。お互いの意思を汲み取り、考えとアイデアを出し合い、地道な作業をコツコツと繊細に積み重ねていく。
空間は、緻密に検討するほど上質になる。その想いを共有する仲間がいてこそ、極限まで深めたこだわりがカタチになり、この世でたった一軒の住宅が生まれる。
- 何のために、何をやらなければならないのか、常に考えながら作業しているという松山さん。そのモノづくりの姿勢が匠龍木工社の真髄だ。
- 1つひとつの作業に最適な道具を使う。建築家の想いや意匠に応えるために、まず道具づくりから始めることもある。
- たとえノミ、カンナなど一般的な道具でも、使いやすくカスタマイズしているうちにそれぞれ数十種類に及んでいる。
- 20歳から仏壇・神棚づくりを始めた父・勝幸さん。84歳の現在までずっと現役で木工制作に日々取り組んでいる。
- 命名は、代表である松山さんが父・勝幸さんに依頼。昇り龍のイメージと職人としてのあり方がこめられている。
- 引込建具の施工図面。引出し易い様に手掛けに設けた1mm角の引掛かりなど、細かい気づかいと知恵が込められている。
松山さんは、建具・家具、突板・無垢材すべてを扱えるオールラウンダー。私のオーダーに応えてくれるのは松山さんしかいないと紹介され、「どうにか頼む!」と最初に泣きついて以来、松山さん率いる『匠龍木工社』は、TAO建築設計が手がける物件になくてはならない存在だ。
シンプルできれいな造作ほど、実は手間がかかる。見えないところに工夫がいるからだ。本物の家具は空間にさりげなくなじむ。主張することがなく、上品に空間にとけこむ。だから、1つひとつのすごさを施主に気づかれない家具ほど、上質だということだ。
松山さんは「こういうレベルの住宅がさらに増えてほしい。そのためにも、施主が潜在的に望んでいる空気感まで伝わるモノづくりに取り組んでいきたい」と言っている。こんな意識の高い仲間と一緒に仕事ができる……私にとっては何よりの幸せだ。