札幌市で三代にわたり板金業を営み、建築家や工務店から圧倒的な信頼を得ている。現在、設計部門を担当している熊谷義秀専務の祖父・登さんが創業。現社長の正義さんが引き継ぎ、職人たちを牽引してきた。業界内の口コミだけで優れた技術力が広がり、受注はとぎれることはない。「完成したものを評価してもらえるのはうれしい。ただクオリティを保つためには、仕事を広げ過ぎないことを心がけている」と義秀専務。世界でトップクラスの実力を誇りながらも気負いのない姿勢に、魅力ある人間性がにじんでいる。
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陽光を受けて、美しい陰影を描く屋根や壁。シャープでありながら、落ち着きとぬくもりがとけこんでいる。この印象的な外観デザインを支えているのは、熊谷板金工業の職人たち。川村との出会いから、すでに15年になる。
いまではTAO建築設計の仕事のほとんどを手がける熊谷板金工業。技術力はもちろん仕事に取り組む姿勢に、川村は深い信頼を寄せている。「できないとは絶対に言いたくない」と言う専務取締役の熊谷義秀さん。「川村さんの要望は、確かに難しいことが多い。でも、うちの職人みんなでどうしたらカタチにできるかとことんアイデアを出し合います。いまではみんな、やさしいオーダーだとやった気がしないと言いますね(笑)」
例えば、川村は開口部廻りなどをすっきり納めたいとこだわっている。そのためには、事前の綿密な下ごしらえが必要となる。熊谷板金工業では、目に見えない部分にも一切妥協はなく、捨て水切り処理や箇所ごとに加工した役物(やくもの)と呼ばれる部材をミリ単位で調整・施工し、雨水が入りこまないよう雨仕舞(あまじまい)の作業を念入りに重ねている。
取材した現場は一文字葺という葺き方で施工された外壁。横から眺めると、ガルバリウム鋼板の1枚ずつが極わずか傾斜しているのがわかる。この処理によって壁面に繊細な陰影が生まれるというわけだ。
なにげなく、きれい。そう見せるために、見えない部分にも力をこめる。同じ素材、同じような施工方法でも仕上がりが違って見えるのは、「“気”の違いでしょう」と語る、熊谷板金工業の2代目社長・熊谷正義さん。「仕事にどれだけ心配りができるかです。私たちはほんの小さなことでも、気になる部分があれば必ずやり直します。創業者である父の代から、よそとは違うことをやろうと技術を磨いてきました。最後は集中力。長年やっていると、1mm以下の差でも手や目で気づけるようになります」
つくるのが好き。現場での仕事が楽しい。熊谷板金工業では、そんな職人たちが、いいものをつくるにはどうしたらいいかと常に考え、あえて難しい仕事にも挑んでくれている。「ほんのちょっとした工夫や微調整でも、川村さんは必ず気づく。喜んでもらえるとそれがやりがいになり、ますます燃えますよ!」と、おだやかに微笑む専務の義秀さん。こんな職人魂が、TAO建築設計の仕事にしっかりとけこんでいる。
- 窓枠周りの事前処理。雨が吹き込まないよう、目に見えない部分にも念入りな作業を施す。
- 綿密な下ごしらえにより出来上がった開口部廻り。余計な枠などは一切見えず、すっきりと仕上がっている。
- 壁面を横から眺めると、鋼板1枚ずつがわずか傾斜しているのがわかる。この繊細な作業により、深みある陰影が生まれる。
- 鋼板を工場で加工し、現場でつなぎ合わせる。最後は、職人の目と手の感覚で1mm以下のきめ細やかな調整を繰り返す。
- 銅板1枚からつくった鶴。紙で折る以上の美しさに、熟練の技が息づいている。
- プレスで加工した後、使う箇所に合わせて拍子木で角度などを微調整していく。地道な作業が、完成度の高さにつながっている。
板金の世界は、実に奥深い。ここまでやればいいということがなく、どこまでもこだわり抜ける。
熊谷板金工業の仕事ぶりには、絶対的な信頼を寄せている。彼らの精神は、仕上がりの美しさに反映され、品良く納まった建物として昇華される。物件を重ねる度に上がっていくミリ単位の難しい要求にも嫌な顔一つ見せず、逆に更なる提案を投げ返してくれる彼等との仕事は実に気持ちが良く、楽しい。
ていねいな仕事、そして板金に対する真摯な気構えを心から尊敬している。