多くの方々が、ペットは家族の大切な一員だという感覚をお持ちでしょう。そんなペットと、快適に楽しく過ごせる家とはどのようなものでしょうか。種類や性格によって求められるポイントが違い、ひとくくりに論じることはできませんが、ここでは猫を例にお話ししたいと思います。
わが事務所にはクロという17歳になる雄猫の”営業部長”がおり、彼のおかげか、「猫と暮らす家」の依頼が少なくありません。設計する上でまず押さえるべきは、排せつと食事の場所をどこにするか、その動線をどうするかということです。
臭いが気になるトイレは、排気設備のある水まわりにスペースをとります。洗うことを考えて、SKシンク(掃除や洗濯のための流し)やバスルームの近くに設置するとよいでしょう。このお宅では、人間用のトイレ=写真①の左手=に猫のトイレスペースを置き、トイレとバスルームの境の壁に猫専用の出入り口=写真②=を設けました。ふんの始末が楽な上、バスルームでトイレの水洗いも簡単に行えます。
また、猫の食事スペースは、トイレから近く、飼い主の気配が感じられる場所に設けます。人間同様、独りで食べるご飯は味気ないですものね。
あとは、ペットにとって過ごしやすい場所を、ペットの個性をよく知る飼い主と一緒に考え、プランに織り込んでいきます。猫の場合は見通しや日当りのよい場所でしょうか。写真③はリビングの吹き抜けに設けた見通しの良いスリット(細長い開口)。景色のよい窓際に、猫が上ることのできる棚を設けるのも定番です。ときには安全に遊べる中庭を設け、風や緑を味わい、楽しめる、とっておきの場所をしつらえることもあります。
大切なのは、状況の変化に対応する視点を持つことです。造り付けのケージを用意したものの気に入ってもらえなかったり、ペットが増えてしまったりということはよくあります。あとから変更するのが大変な造作はあまりやりすぎず、柔軟に使える家具や既製品と上手に組み合わせるのもよいでしょう。
ペットたちは居心地のよい、安全な場所を本能で知っています。彼らにとって快適な家を考えることは、すなわちそこに住まう人間にとっても気持ちのよい快適な住まいを考えることなのです。
(川村弥恵子・TAO建築設計代表)
(写真:いずれも酒井公司撮影、「住まいの提案、北海道。」提供)
①左の壁の向こうが人間用のトイレ。猫用トイレが併設されている。壁の下に猫の出入り口がある。右の奥は風呂
②専用の出入り口を通って
トイレからバスルームへ出てきた猫
③吹き抜けの2階部分に設けたスリット。猫にとっては見通しがよく、飼い主とのやりとりも楽しめる、居心地のよいスペースだ。
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